極私的観戦記 平成23年 第60回札幌大会
           小菅正夫(昭和44年入学)
 決勝 対名古屋大学戦
 昨年と同じ顔合わせ!
 決勝の相手は、昨年も覇を競った名古屋大学である。昨年は地元優勝を狙った名大を、北大が保坂、林、小林の抜き役3人を残して優勝を飾った。中ノ森新主将は、北大との合同合宿を申し出た。北大保坂主将は快諾し、9月7日から12日までの間、快適な札幌の地で、両校は互いの秘術を惜しげもなく繰り出し、猛稽古に明け暮れた。当に切磋琢磨の6日間であった。ここに、両校は約束の決勝戦へと駒を進めてきたのである。
 名大の陣容は、4年生が中ノ森主将を筆頭に4人、3年生3人、2年生5人、1年生3人とバランスが良い。しかも、弐段8人衆を擁する強力な陣容を誇っている。一回戦は渡邊、早稲田、杉山、加藤の活躍で3人を残して九大を破り、準決勝は大橋、早稲田、杉山、武馬、小塚の活躍で東北大に5人を残し圧勝。しかも、中ノ森主将は、まだ一度も畳に上がっておらず、背中に「稽古量がすべてを決する柔道」と書かれたTシャツを脱ぐことなく、絶好調で決勝を迎えた。
一方の我が北大は、開催校の指定席である7番籤、敗者復活トーナメントからの出場で、東大に7人を残したものの九大戦では大将決戦まで縺れる激闘を演じたが、2日目の準決勝の阪大戦では、2人を残して決勝へと駒を進めてきた。
 順調に勝ち進んで来た名大と接戦をものにしてきた北大だが、決勝となれば、また違う力が働いてくる。連覇へ向けてのお膳立てが整った。心機一転、優勝旗を再度我が手に抱いて凱旋して欲しい(図D-1)。両軍、気合いの充ち溢れる表情で畳に上がってきた。いよいよ、連覇へ向けた最後の戦いである(図D-2)。
図D-1
図D-2
 先鋒戦。北大は順当に4年目の高橋弐段が布陣。対する名大は、何と大事な先鋒に1年生の大橋を持ってきた。180cm・90kgの体格で東北大戦では大内刈りで1勝を挙げている。高橋左、大橋右の喧嘩四つ(図D-3)。高橋、突然引き倒されるも、寝技を嫌い逃れようとする足に取り付き、押し倒すが場外。中央に移動して、高橋が絡み付くが大橋、持ち上げて横に落とし腹の上に乗る。大橋の膂力侮れず。左で肩を極める素振りから、突然立ち上がろうとするところ、高橋が左足に絡み付く。大橋、付かれた膝を高橋の腹に当てて全体重を掛けながら絞めを狙う。大橋が不用意に立ち上がったところ高橋が後ろに回した左手で背帯を取り引き摺り倒して、のし上がろうとするも、大橋の動きよくそのまま立ち上がる。高橋、右膝を取り、持ち上げて背中に回り、大橋を引き倒すも、そのまま上に乗られる。高橋が下から下半身を固めるが、大橋の手足力強く、ついに胸を合わされてしまい縦四方の体勢に入られる。しかし、大橋攻めては来ずに何としても立とうとする。高橋、両足を右足に絡め、腕で左足の自由を奪い、それまで。予想に反し、1年生大橋の主張が目立つ一戦であった。
図D-3
 次鋒戦。北大は絶対のカメを誇る大瀬初段を投入。名大は抜き役早稲田弐段が出てきた。早稲田は、172cm・88kgと均整の取れた体格で、九大戦で2人抜き、東北大戦で1人を抜いて絶好調である。ただ、分けのスペシャリスト大瀬にどう挑むか、お手並み拝見。
 大瀬、定跡通り足取りからカメとなって沈む。「さあ来い、早稲田」と気合い充分。早稲田、背帯と右膝を持ち一度持ち上げてから一気の縦返し。大瀬、これは読み筋と、半回転して畳を掴む。1分を過ぎた頃、諦めたか早稲田そのまま大瀬を離れる。大瀬、早稲田が飛びついてくるところをカウンターで足を取り、そのままカメへ。早稲田の縦返しを読んで、今度は足に体重を掛けて防ぐと、早稲田右肘に執着をみせる。大瀬の肘は固く、早稲田諦めて立つ。ここまではまったく大瀬の主張通りである。早稲田、縦返しから、一度浴びせ倒しを見せ、更に縦返しで大瀬を回転させるが、大瀬は心得たもの半分捻って畳を掴む。2度、3度と縦返しを繰り返すがその度に諦めて立つ。早稲田が勢いよく掴みかかってきたところ、大瀬渾身の巴で回せば、早稲田慌てて俯せになり、大瀬が追って帯取りに入り、腹に固定して正対。上体を引き付けるも、早稲田に持ち上げられ、待て。大瀬、小外掛けを躱して右足に付く。早稲田、鋭く動き回り、前後に大瀬を浮かせる。大瀬が体を支えるために一瞬出した左手を早稲田が見逃すはずがなく、一気に捻り上げれば、大瀬堪らず肘を伸ばした。早稲田、足を預けたまま腕拉ぎに執着、大瀬の右肘は120度にも折れ曲がるが、大瀬参りを打たず歯を食いしばったままじっと我慢(図D-4)。早稲田、ついに諦めて、肘を放し足抜きへ掛かるが、大瀬の二重絡みは鉄鎖の如く早稲田の右足を捉えて離さず、時間。折れずに頑張った右肘をさすりながら、大瀬胸を張って大歓声の北大陣へ堂々の生還を果たす。
図D-4
 参鋒戦。北大は、東大戦で1勝を挙げた西川初段が2年生目黒弐段と対戦。小柄ながら機敏に動く目黒を横捨て身で引き込んでカメにし、すぐに上について攻撃開始。膝で首を押さえて肘を取ろうとするが、目黒が起き上がり場外へ。西川、何度も尻を引き摺るように引き込むが目黒嫌って、立つ。西川、なかなか目黒を制御できず、すぐに一気の引き上げで立たれてしまう。半分が過ぎた頃、同じような展開で、西川が腰を落とそうとしたところ、尻が落ちぬ間に、目黒の左足が西川の股に差し込まれ、一瞬のうちに跳ね上げられてしまった(図D-5)。西川背中から落ちて、一本。名大陣から大歓声が湧く中、西川悄然として帰陣。
図D-5
 会場のざわめきが止まぬまま、四鋒に布陣した1年目期待の清野弐段が登場。目黒、勢いよく清野を引き込み、肘を狙ってくるが、清野落ち着いて振り飛ばす。名大陣、やんやの歓声。清野が奥襟を取った瞬間に引き込むが清野持ち上げて、待て。清野、組み際に内股を連発するが、直前にしゃがみ込まれる。すぐに離れて待て。そのうち、何もしないうちに目黒が倒れるようになる。清野の圧力が利いているのだろう。半分が過ぎた頃、目黒に対し「組むように」との注意がなされた後も、組んだ途端にへたり込む。そして、再開後清野が飛びつくように奥襟を掴んだ、その瞬間内股に入っていた清野は、目黒を2度跳ね上げ、そのまま一気に大内と刈れば(図D-6)、目黒仰向けに吹っ飛び畳に打ち付けられて、一本(図D-7)。清野、西川の仇を討つ。
図D-6
図D-7
 2人目に迎えるは、四鋒4年生平野弐段。平野、飛びついて背帯を取り帯取り返しを狙うが、清野動かず。平野の動きに合わせて、左に回り込み肩を固めて背帯を取る。清野、右拳を平野の左腋にねじ込み胸を合わせる(図D-8)。ちょっと乗り過ぎが気に掛かる。平野の上体が決まっていない。「清野、下がれぇ〜」。平野の足が清野を浮かせにかかっている。平野の左腕が清野を引き付けている。「清野ぉ〜、一度下がれぇ〜」。平野が動き出した。清野をはね除け、押し込んで横に付いた。運悪く清野の左足が平野に捉まっていたため、返しから上になられて胸を合わされてしまい、抑え込みが宣告された。清野、最後の最後まで暴れ続けるが横四方固めで一本負けを喫す(図D-9)。
図D-8
図D-9


 北大五鋒は、4年目真井初段。ここで平野をしっかりと止めることが最後の仕事だ。真井、引き込み、返してすぐに背中について、絞めを狙う(図D-10)。平野、真井の右腕を手繰り込み、前に落とそうとするが、真井先に立って、待て。真井引き込む。平野、肩を極め横四方の体勢に進む。真井、二重絡みの体勢。ここで、重要なことは左腕を極められないことだ。平野、徐々に上へ上がりながら二重絡みを解き左足で蹴って足抜きに来た(図C-11)。「真井ぃ、潜り込めぇ〜。腕を取られるなぁ〜。あぶなぁい」。右足が抜かれた瞬間、真井の両足が平野の左足をがっしりと捉えていた。「よぉぉぉしぃ〜。真井ぃ〜、辛抱だぁ〜。耐えろぉ〜」。北大陣からの大声援の中、試合終了のベルが鳴っていた。真井、気迫の引き分け。
図D-10
図D-11


 北大六鋒には平尾弐段が布陣し、名大五鋒3年生175cm・100kgの巨体森本と対戦。平尾右、森本左の喧嘩四つ。森本、内股で牽制。平尾、組み勝っているが、技が出ない。どうも、長身で左組みの森本がやりずらそうだ。平尾、巴から縦返しを狙うが、手をつかれ、体を捻られて上に乗られる。すぐに鉄砲で返し、体を回して畳を掴むが、重い森本を背に乗せる。さすが平尾、森本を背負ったまま鬼の如く立ち上がり、崩れる森本の上になる。左で背帯を取り、右で腋を掬って押しつぶし、抑え込むが直ぐに解かれる。森本なかなかの地力。平尾、カメになった森本を制し、肘を持って一気に持ち上げるが、森本回転して元に戻す(図D-12)。「平尾ぉ〜、取るぞぉ〜」。平尾、肘と帯を持って、懸命の縦返し。森本、自分から回転し、腹這いとなったところで無情の笛が鳴ってしまった。平尾、森本を取り逃がしてしまい、痛恨の引き分け。
図D-12
 北大七鋒には3年目小坂初段が陣取り、1年生ながら172cm・82kgの体格で初陣の九大戦では一本背負いで1勝を挙げている渡邊弐段と対戦。小坂、直ぐに引き込み、足を利かせて両足を制する。渡邊、一度転倒するも立ち上がり、持ち上げようとするが、小坂、体を捻って渡邊を転がし、後半身にのし掛かる。渡邊が立とうとした時、小坂の足が膝の逆を取っているように見えたらしく、審判が両者を立たせた。「後3っつ半です」両軍より声が掛かる。小坂の引き込みを渡邊が持ち上げる展開が続き、数度目で小坂が渡邊の足を制し、膝を着かせる。小坂、渡邊が立ち上がるところを足を絡めて勢いよく後ろに倒し、体勢を維持(図D-13)。試合巧者小坂、渡邊に攻撃の手がかりすら与えず、引き分け。
図D-13
 北大中堅輝本弐段、3年生小塚弐段を迎える。小塚は174cm・90kgの恵まれた体躯で、東北大の副将・大将を抜ききった実力派である。輝本右、小塚左の喧嘩四つ。輝本、先に小塚を背負うが潰され小塚の縦返しを堪える。輝本、徐々に上に這い上がり左腕が小塚の首を捉える。小塚、左手で背帯を掴み、返す気充分。輝本、徐々に体を起こし、足を抜く体勢づくりに入る。道衣の裾を捲り上げ、肩の固定を万全とし、首で押し上げながら右足を抜こうと右腕で膝を押す(図D-14)。「後1ぉつ」の声で更に腋を固めようと右手を添えた、その瞬間。待っていたかのように小塚は鉄砲で輝本をはね除けた。攻守ところを変え、小塚が上になったところで、時間。輝本、攻め続けたが、無念の引き分け。中堅を終えて、1人差を追う展開のまま。
 七将には、5年目赤松。この瞬間のために、彼は学業まで捨てて精進を続けてきた。対するは、中堅に陣する2年生杉山弐段。177cm・90kgの大型選手で、九大戦で2人を、東北大戦では3人を抜く活躍を見せた剛の者である。最後の戦いとして願ってもない強敵だ。
図D-14
 杉山左、赤松右の喧嘩四つ。赤松、右襟を取るが、振り解かれる。両者組み合い赤松が頭を下げたところを潰される。赤松、腰を低くして組み合うが、前に落とされる。半分経過した頃、赤松に「へたり込み」の注意が与えられた。低く組み合うが、どうしても上からの圧力に抗しきれず跪いてしまう。杉山、赤松のへたり込みを印象づけるためか、組むと上下に呷り、頭を押しつけて潰すことが多くなる。名古屋陣からも、へたり込みを意識させるヤジが飛ぶ。主審は副審を招集し協議、赤松に警告を与えた。赤松、低く組むが、倒れてはならないという意識が強く、中途半端な姿勢でついて行ってしまった。小内で足を開かれた、そこへ内股が入ってきて、更に2度の蹴り上げで宙に舞って敗北(図D-15)。
図D-15

 【閑話休題】
 赤松は、畳に沈んだ。
 この一年の彼の努力は何だったか。同期のものは彼を残して卒業して行った。だが、彼は残った。自分の中に燃え尽くせていないものがあったからだ。それを燃やすために1年間道場に通い続けた。決して手を抜くことをしない赤松の姿が道場にはあった。
 この結果は黙って受け入れよう。この1年間が無駄でなかったことは、彼が最もよく知っている。周りがどうのこうの言うべきではない。あの一瞬、いや、試合当日を迎えた時点で彼の中にあった“燃え尽くせなかったもの”は、なくなっていたはずだ。結果など、どうでも良いではないか。赤松は、決勝戦の畳に上がり、自分の柔道を徹底して主張していた。そのことに共感する多くの友が赤松を見守っていた。彼は立派に北大柔道部を卒業出来たのだ。
 
 次の六将に陣取るは北大4年目副主将河野初段である。河野、何としても杉山を取れ。両者左組み。河野先手を取って小内、一本背負いを繰り出す。河野、組み手争いで譲らず、奥襟を取らせない。河野、一本背負いで俯せとなるが、杉山寝技に来ない。河野、動きよく小外、背負いを連発するが杉山動かず(図D-16)。「後2つ」の声に杉山が猛然とラッシュを掛けるが、河野徹底して奥襟を拒否、落ち着いて捌いて、時間。河野、杉山と引き分け、北大は2人差を追いかけることとなった。
図D-16
 北大五将は竹中初段。対するは1年生本田初段。竹中の173cm・65kgと比べ、本田の体格は180cm・80kgと二回りほど大きい。本田は、九大戦の先鋒に起用されているのだから、試合度胸も満点で、名大期待の新人なのであろう。
 一礼後竹中、両手を下げたままふらりと出て行くと、本田が飛びついて奥襟を取って、引きずり回して来た。竹中、そのまま寝技に誘うも、すぐに離れていった。再開後、竹中「ふざけるな」とばかり奥襟を取りに行けば、本田さらに大きく背中を取り返しに来た。その瞬間、竹中が跳んでいた。本田の右肘は竹中に捉えられていたが、肘が伸びずに本田辛うじて持ち上げて、待て。竹中十八番の跳び十字である。何と、名大陣が驚きのあまり総立ちになっている。竹中、奥襟から取りに行き、引き摺るように引き込むが、その都度逃げられる。竹中、奥襟を取りに来た本田の右腕に飛びつくが、今度は浅く逃げられる。二度ほど、引き込みを持ち上がれられる。服装を正して、竹中すぐに双手刈り。そして、その時が来た。
 竹中、奥襟を取って引き付ける。本田も奥襟を取る。本田の大内を竹中左手を突っ張って躱す。その瞬間、本田の右腕が伸びきり、腋には大きな空間ができていた。これを竹中が見逃すわけがない。竹中は、大きく股を開いて肩まで飛び上がり(図D-17)、両腕で本田の右腕を抱えて畳へ落ちていった(図D-18,19)。そのまま半回転すれば、両者は天を仰ぎ逆十字が完成していた(図D-20,21)。本田、堪えきれずに参りを打って、跳び十字で一本(図D-22)。竹中の初勝利である。名大陣は唖然とし、北大陣は歓声に湧く。
図D-17
図D-18
図D-19
図D-20
図D-21
図D-22
 跳び十字については、格闘技お宅の竹中が、佐々木元コーチの指導による反復練習を熱心に取り組み、稽古終了後の技研究も人一倍熱心に追及していた。当に彼の一撃必殺の得意技なのである。この一勝で、北大陣を覆っていた重苦しい雰囲気が一変した。
 竹中の2人目は、名大2年生畔柳弐段。名大には大柄な選手が多く、畔柳も174cm・80kgで、竹中よりも二回りは大きい。竹中、しっかりと引き込むも畔柳正対のまま付いて来て、機を見て持ち上げ、待て。竹中、巴気味に引き込むと畔柳股を膝で割ってきて攻撃の姿勢を見せるが、結局は持ち上げて、待て。畔柳は跳び十字を警戒してか、腕を伸ばして来ないので、竹中が先に組み自分の体勢で引き込むことができる。「後2ぁつ」時間の経過が告げられる。竹中、そろそろ関節を狙いに行きたいところ。服装を正して、再開。直後に畔柳が双手刈りに飛び込んできて、竹中が足を持ち上げられて横から落ち、何と技有りの宣告。とっても技有りとは思えない。竹中が尻餅を着き、畔柳がそのまま押し倒しただけだ。立技はきちんと見て貰いたい。
 が、竹中顔色一つ変えず悠然と引き込む(図D-23)。畔柳、決して手を帯より前に出すことなく持ち上げようとすると、まだ残っているのに、何故か待て。「後1ぉつ」を聞き畔柳が足を越えてきた。体重が移動した瞬間、竹中がくるりと回転し畔柳を慌てさせるが、それまで。竹中、一人を抜いての分けは立派。これで北大は1人差に詰めた。
 北大四将宮島初段に対するは名大五将2年生村松初段。これまた180cm・110kgの巨漢である。宮島、40kg差をものともせず、堂々と引き込むが立たれる。村松が奥襟を取るところ、宮島足取りに行くも潰され(図D-24)、背中に110kgを負う。村松、方針が定まらないようで、宮島の背を上下するが、宮島に限って取られる心配は微塵もない。村松、何度も怪力で宮島を持ち上げるが、宮島一度として天井を見ることなく終始宮島の柔道を展開して引き分けたは、見事。
図D-23
図D-24





 北大参将には3年目次期主将小竹初段。対する四将4年生武馬弐段は170cm・83kg、東北大戦で1勝を挙げている。小竹は、来期のためにもここで1勝を挙げたいところである。
 小竹、組んで直ぐに右から得意の袖釣りを仕掛ける(図D-25)が肘が抜けてしゃがみ込まれ、そのまま覆い被さるも素早く逃げられるが、頭に廻って押さえつける。武馬、寝てくるかと思いきや、しゃにむに立って来て場外。小竹、左で奥襟を取るが引き込まれ噛み付きへ。右から呷って背中に着くが、絡まれて立とうとした時、後ろから抱きつかれて倒される。小竹、上手く動いて北大伝統の噛み付きへ。小竹、武馬の動きに合わせて背に付き頭に廻るが、武馬はカメになることなく、持ち上げてくる。小竹、嫌がって背中を向け場外へ出ようとすると、またしても背中にしがみつかれて倒され、乗り上がられたところで待て。名大陣より、大拍手と大歓声が湧く。再開。小竹、武馬を横にして固めに入るも、武馬暴れて離れ、待て。小竹の袖釣り、小外が武馬を振り回し、カメになった武馬の横に付き、何としても抑え込まんと極めどころを探すが、武馬も力強く抵抗し、持たせない。小竹、首と肩を極め、返しに行く(図D-26)が、武馬にのし掛かられたところで、時間。小竹、懸命に取りに行くも時間で引き分け。小竹の抜こうとする意欲が光った。来年までには、抜き切るよう稽古を重ねて欲しい。
図D-25
図D-26
 いよいよ、北大は副将の登場となる。根元弐段が迎えるのは名大参将2年生加藤初段。加藤は九大戦で1人を絞め技で抜いている。根元が奥襟を取れば、加藤跪きカメ。根元SRTを狙うも加藤防御を心得ている。根元、背中について腹に乗せ、左手を腋に潜らせ片羽に絞めつける(図D-27)。加藤、懸命に頭を抜きカメに戻る。名大陣から拍手。根元、何とか加藤を伸ばそうとするが、カメを崩せず。加藤がカメに戻る度に名大陣から大拍手が鳴り響く。根元、もう一度SRTを狙うが、加藤の堅固な防御が邪魔をする。しばし加藤を横向きにしていた根元が、一気に加藤を乗り越して横四方の体勢を築く。加藤、懸命に潜るところを根元が胸を合わせに行くが、潜り込まれてついに下を向かれる。またまた、名大陣にて大拍手が湧く。根元、カメを崩して背に付くも加藤のがむしゃらな暴れで主張を遮られる。「根元ぉ〜、後ひとぉつ。ガンバァ〜」。根元最後の攻撃に、加藤の腋も首も手も足も固く、貝の如く閉じたままじっと動かず。8分間が流れ去った。加藤、飛び上がって喜ぶ(図D-28)。根元、残念ながら引き分けられる。
図D-27
図D-28
 保坂主将に残された名大選手は2人。副将中ノ森主将と大将松元初段。ここまでは、名大の作戦通りの展開となっている。しかし、北大には保坂が残っている。前主将小林から受け取った優勝旗をもう一度、自らの懐に抱き小竹に引き渡す。そのために、同期10人と共に励んできた保坂が、畳に上がる(図D-29)。我らは正座して、保坂と同心同体になった。
図D-29
 「赤、名古屋大学、中ノ森選手。白、北海道大学、保坂選手」
 保坂主将、いつもの通り仕切り線で、両手を体側に伸ばし、深々と一礼(図D-30)。両手を挙げて胸を張る中ノ森主将に立ち向かう。中ノ森、組もうとせず。袖を取った保坂は右足を掠い、逃げる中ノ森を追うが場外。保坂、ようやく袖を取り引き込むが、持ち上げられて、待て(図D-31)。中ノ森は徹底して組まず、保坂の掴み手を切るばかり。保坂、足を狙いに飛び込むが、中ノ森に上に乗られ休止される。ただただ、貴重な時間だけが過ぎ去っていく。北大陣は全てを保坂に託し、寂として声なし。
図D-30
図D-31
 保坂、立ち上がって、中ノ森を振り解く。保坂、引き込み直後に関節を狙うが、中ノ森も迂闊ではない。持ち上げられて、待て。十分に組めない保坂は、引き手だけで引き込むが、これでは密着できない。中ノ森、時を刻むことだけに専念し、保坂は時間とも戦っている。襟も取れず、袖も取れず、保坂は足を狙うことしかできない。そして頭を下げると中ノ森に押し掛かられ、膠着。時間だけが無情に流れていく。保坂、立ち上がって、またやり直す。ただただ、愚直にやり直す。そして、必殺の跳び十字(図D-32,33)も中ノ森には通ぜず、持ち上げられて、待て(図D-34)
図D-31
図D-32
図D-33



。そもそも、組みに来ないのだから肘が伸びるはずもない。保坂に追い込まれ、中ノ森はあっさりと場外へ出る。ここまで来て、ようやく主審が口頭で「組むように」指導。“そんなことは、どうでも良い。保坂は何とかする男だ”。大丈夫、保坂に任そう。不意を突かれ、保坂が倒れた。中ノ森が保坂の頭を膝で押さえ、背帯を取って、動かず。保坂、ようやく足首を取り、頭で押せば、中ノ森離れて、立つ。ここで、主審は両副審を呼び、協議した後、中ノ森に「組むように」指導。“つまらん。指導など要らん”。保坂、双手刈りから場外へ逃げる中ノ森の左足に取り付き、引きずり込もうと必死(図D-35)。
図D-35
 涙が出てきた。“保坂ぁ、もういいよ。畳の中央で黙って立っておれ”
 でも、保坂は追い続けた。時間いっぱい、追い続けた。
 何を追っていたのだろう。保坂の追っていたものは、我々北大柔道部の念願だったのではないか。保坂ありがとう。もう、いいよ。保坂十分だ。
 試合終了の笛が二人を分け(図D-36,37)、保坂を解放した。
 「引き分け」の宣告を受け、仕切り線の上に立ち、保坂は深々と頭を下げた(図D-38)。
図D-36
図D-37
図D-38
 両校整列し、お互いの健闘を讃えて、礼(図D-39)!
 北海道大学は、あと一歩及ばず、名古屋大学に惜敗した。

図D-39
整列した参加者を前に、表彰式が挙行された(図4)。優勝校名古屋大学に続き、北海道大学保坂主将に準優勝の賞状が手渡された(図5)。
 閉会式終了後、保坂主将から部員に向けて、主将として最後の訓辞が行われ(図6)、記念撮影後、第60回七帝戦柔道大会は幕を閉じた(図7)。
図5
図6
図7
 
保坂主将と共に、ここまで戦ってきた、河野、根元、輝本、大瀬、高橋、竹中、西川、平尾、真井、西田の同期生諸君!ありがとう。ご苦労様でした。
 河野選手は歯学部なので、次回に向けて更なる精進を期待している。また、もう一度出場する資格のある選手もいると思うので、今回の赤松選手を見習って次回大会へも万全の体勢で臨んで貰いたい。
 諸君は、幹部生として3年目以下の部員を糾合し、全4試合を総力を出し切って戦った。昨年、小林主将から手渡された北大柔道部の魂を受け、彼らは1年間思い残すことのない精進を重ねてきた。結果をすべて受け入れることは、悔いを残さない稽古を日々重ねてきた者だけに許される。
 筆者は、決戦の翌日関西を中心に活動している九大を中心とした先輩諸兄を旭川に迎えた。昼食時、名大の先輩から「よくぞ、名大の申し出を受けてくれた。あの札幌での合同合宿で、我々は北大柔道精神を学ばせていただいた」と感謝の言葉を頂戴した。他大学の先輩たちも、それぞれ北大柔道部の健闘を讃えていた。
 保坂主将から小竹新主将へと北大柔道が手渡された。来年の福岡大会では、名大ばかりでなく、地元九大も優勝を狙っているし、被災地にあり十分な稽古を積めなかった東北大も復活の東北魂を燃え上がらせて参戦してくるだろう。東大、京大、阪大も戦力を研ぎ澄ませているに違いない。小竹新主将には、思いを残すことなく優勝を目指せる陣容を整えて、福岡の地へと北大柔道部を率いて来て貰いたい。我々OBも必ずや激戦地へ駆けつけ、その旗の下で共に戦いたい。 
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