極私的七帝戦観戦記 第59回 名古屋大会
           小菅正夫(昭和44年入学)

 大会二日目も名古屋は熱気の中で夜が明けた。一日目を勝ち抜いて準決勝に駒を進めたのは、東北大学、北大、東大、名大の四校である。

準決勝 対東北大学

昨年は準決勝で名大と死闘を演じ、涙を飲んだ東北大が、準決勝の相手である。敗戦後、選手が悔し涙を流しているところがNHKテレビで放映されていた。捲土重来、今年こそ優勝の二文字に固執し、飢餓集団と化して勝ちに来るだろう。だが、この対戦を小林主将は、“予定通り”と喜んでいた。
 北大は、五六・五七回大会と東北大学に連敗を喫しているのだ。小林主将ら八人もの北大勢が、屈辱という凝りを抱えたままでいる。これからはじまる準決勝戦は、彼らにとって、特に四年目にとって最後の雪辱の願ってもない機会となったのである(図21)。
「第一会場、東北大学対北海道大学」、戦いの宣告が会場に響き渡った。両校は、気合い十分に出陣した。正面に礼、お互いに礼(図22)。いよいよ優勝への第一関門が開き放たれた。
図21
図22
 我が軍は、好調高橋を先鋒に起用、東北一年生藤崎二段を迎え撃つ。両者は、大きく気合いを発し畳に上がる。高橋左に藤崎右と喧嘩四つ。激しい組み手争いが続く(図23)。高橋、一瞬の受けから膝をつき、藤崎に背中を取られる。藤崎は、高橋の動きに合わせて上から首を押さえ腰を決めつつ、なかなか高橋に立つ機会を与えない。高橋、腰を浮かせて誘い、何とか巻き込もうとするが、藤崎バランスよく高橋の背に乗り続け、そのまま時間。高橋、無念の引き分け。
図23
 次鋒に布陣する藤本の相手は、二年生弘田初段(図24)。弘田、藤本を引き落として頭につき、横から三角を狙う素振りだが、藤本を立たさぬように膝で首を押さえ、背帯で腰を制御しているだけ。藤本、高橋に続いて何もさせてもらえず引き分けられる。
図24
 参鋒戦。北大陣より大歓声を受けて平尾が登場。対する東北は三年生高橋(佑)二段。平尾、ずいと前へ出れば、高橋は腰砕けとなり尻餅をついたところへすかさず平尾が殺到、瞬時に肩を極め、流れるような体移動で横四方に固めれば、高橋抗せず一本。開始僅か五〇秒で仕留めた(図25)。
 二人目は、四年生ユ初段。韓国からの留学生。寝技に精進した所為だろうか、耳を包帯で巻いての出場である。立ち上がり、上背のあるユがしっかりと引き込んできた。平尾、落ち着いて頭に回り胸を合わせて上四方に固めた。ユは自らの長身をねじ曲げ懸命に跳ね暴れるが、平尾が逃がすわけもなく崩れ上に移行して一本(図26)。四五秒の勝負であったが、ユ選手は正しく一礼して帰陣した。
 三人目に迎え撃つは、三年生葛西初段(図27)。組み際、葛西の流れるような引き込みに平尾すぐに頭に回ろうとするが、葛西の脚が粘り着いてきて正対し小康状態に入る。平尾、しっかりと腰を下ろして葛西の動きを待つ。北大陣より「ファイトォ〜あとよおっつ」の声援が響く。葛西は待てど動かず、じっと時間の経過を待つのみ。「あとみぃっつ」北大陣じっと平尾の動きを待つが、平尾の両腕と右足が葛西の支配下にあり、動けず。「平尾ぉ〜あとふたつだよぉ〜思い切って立てぇ」懸命の声援が飛ぶ。「あとひとおぉつ」の声に平尾、腰を立てて膝を上げ左手を振り解くも、葛西に再び両腕を捉えられ時間。あと一人は抜きたかったところ、残念無念。
図25
図26
図27
 北大四鋒には、九大戦不戦の五藤を配し、二年生長谷川初段との対決。五藤、長谷川の引き込みに合わせ切れ良く大内で刈り、そのまま潰して頭に回われば、長谷川必死の亀で防戦。五藤、長谷川の両足首を持ち上げ、長谷川が慌てて脇を上げたところへ足首をするりと差し込み、横へ崩しながら攻撃を続けるも、長谷川バランス良く畳を見続ける。五藤、休むことなく帯取りから、横崩し、左右への振り等々あらゆる動きで長谷川を転がし、ついに五藤の右脚が長谷川の脇から首に回り、左足の膝裏へ挟み込まれた。「また、よっつあるぞ〜」誰もが五藤の勝利を信じていた。五藤の脚は三角に組まれ、長谷川の背中に逆馬乗りとなり絞め続けるが、長谷川の頑張りも続く。五藤、体を捻り込み長谷川の左肘を絡めるが、長谷川の驚異的な藻掻きに苦しむが、「あと二つ」の声についに長谷川を仰向け状態にして、三角に絞め続ける。長谷川のどこに力が隠されているのだろう。またもや長谷川は畳を睨んでいた。五藤は最後の力を振り絞って、ついに三角のままで抑えに行き「抑え込み」(図28)十秒〜二十秒〜、長谷川の右肩が五藤の足もとで大きくなり五藤を跳ね返し「解けたぁ」の声に時計は二十九で止まっていた。三角も外れ長谷川は亀のまま。五藤は一発勝負に掛けて長谷川を離す。仕切り直し後、すぐに長谷川がへたり込むこと三度、審判協議のうえ、注意を与える。再開、突っ込む五藤の足にしがみつく長谷川を取り切れず、引き分け。仕切り線で堂々と立つ長谷川と項垂れる五藤。この試合、五藤の残念よりも長谷川の諦めない粘りを讃えたい。二十九秒で脱した長谷川の気合いは剛である。
図28
 五鋒には、同じく九大戦不戦の三年目河野初段が、東北二年生高橋(光)弐段を迎える。河野左、高橋右の喧嘩四つ、河野が組み際に放った大内に高橋が守勢に回る。河野組み勝ち、大内、大外と高橋を攻め立てる。河野、小外から足を取って押し込めば、高橋堪らず横から落ちて亀。すぐに頭に回った河野は、じっくりと固めて背帯を裾と共に絡め取って持ち上げ、できた隙間に右手を深々と腹に差し込んだ(図29)。高橋は、両手で河野の左袖を掴み右足を支えに断固潰されない構え。北大陣より「河野、あと半分だよ」の声に河野振り切って立つ。河野の大内からの一本背負いも体が寄らずかわされる。「あと、ひとつと半分ーん」河野必死の形相で左大内、右一本背負いを繰り出し高橋を追うが、最後まで逃げ回れて、無情の時間。高橋の小さなガッツポーズに河野残念無念の一戦であった。
図29
 北大陣六鋒には、九大戦副将の四年目赤松初段が登場、東北中堅一八三cmの巨塔三年生伊藤初段と対戦(図30)。組み際、一気に伊藤に覆い被され、赤松思わず亀となる。伊藤の狙いは、長い体と長い四肢を活かしたSRT。何としても伊藤の左腕を腹から掻き出したいところだが、瞬時も与えられず、左から一気に起こされ、伊藤に跨れた。赤松の体が悲鳴を上げて撓る。「元に戻れ〜」陣営から絶叫が迸り、赤松は畳へ向かって上体を捻った。頭は外れたものの、伊藤の右腕は首から肩を捉えて離さず、右脇も引っ張られて赤松の動きが止まってしまった。「まだだぁ〜、極まっていないぞ〜、戻せ〜」の声援に応え、ついに赤松は伊藤を振り解き畳を掴んだ。北大陣歓声に包まれる。ホッとしたのも束の間、伊藤の更なるSRTが押し寄せてきた。今度は伊藤の両足にしっかりと捉えられてしまった。赤松に、これを覆す余力は残されておらず伊藤の縦四方固めに屈す。だが、最後まで藻掻き暴れ続けた赤松の粘りは伊藤の体力を確実に奪っていた。
図30
  続く七鋒には、九大戦不戦の二年目小竹初段が布陣し伊藤と向かう。小竹左、伊藤右の喧嘩四つ(図31)。小竹、姿勢良く組み勝ち伊藤を背負うも懐の深い伊藤に躱され、潰されそうになるが、力で立ち上がり伊藤ついて来れず。伊藤、奥襟を持ち、何とか小竹を潰そうとするが、小竹は伊藤の膝を持って立ち姿勢を崩さず場外で、待て。この辺りが赤松の粘り効果である。小竹、常に前に出て組み、背負うも不十分、伊藤の内股も不十分。伊藤、長身を利し背帯を取って潰そうとするが、小竹は断固頭を下げず場外へもつれ、待て。両軍より「あと、みいっつ」の声。再開後、一瞬に上から覆われ潰されそうになるが、小竹は藻掻きつつ立ち上がり場外。起き上がる伊藤の顔が疲労に染まっている。再開直後、小竹疲れたのか伊藤に潰されてしまった。このまま、伊藤のSRTを受けるのかと思われた途端、小竹が魂の力を発揮した。伊藤を背負ったまま尻を上げ足を伸ばして立ち上がり、そのまま伊藤を浴びせ倒したのだ。立ち技なら一本となっていたほどの勢いだった。主審「待て」の指示に、小竹胸を張り堂々と仕切り線に戻り伊藤を待つ。再開後も伊藤の上背が小竹を潰した。徹底した伊藤のSRTを堪える小竹を「我慢だ。小竹、我慢ぞー」と声援が包み込んで時間。両者しばし服装を整え、引き分け。見事小竹が巨塔伊藤を止めた。いや、赤松と小竹の二人で伊藤を止めたのは殊勲。
図31
北大中堅には保坂が布陣、東北七将二年生佐藤初段と対戦。保坂、落ち着いて引き込むも、佐藤しっかりと腰を落とし両手で帯を押さえて胸を張る。保坂、機を見て佐藤を横に落とし馬乗りとなり、すぐに頭に回って横三角で回すこと四度、佐藤も必死に堪える(図32)。保坂、今度は背中に取り付き首を狙いつつ佐藤の左脇に固執するも、佐藤懸命に正対へ戻り振り出しへ。「あと、ふたつと半ぶ〜ん」保坂、一気に腕を取り体を寄せ逆十字へ持って行くが、佐藤に持ち上げられ、待て。再開後、佐藤の足取りに合わせて引き込んだ保坂がそのまま佐藤の背に付き、絡め取るやに見られたが、佐藤は動いて正対へ。保坂すぐに前三角へ移行するも持ち上げられて待て。時間のない保坂、立ったまま関節を取りに行くが佐藤残して正対へ向くも、保坂のラッシュは止まらない。腕取りから横三角と攻め続けるが佐藤の守りは堅く、時間。残念ながら引き分けられたが、東北の堅守も光った戦いであった。
 中堅を終了し、北大は一人差で後半戦へ突入した。
図32
 七将には、ボスゴリ林が布陣しており、東北四年生小畑初段と対戦す。小柄な小畑が引き込む。林体重を掛けてながら小畑の左膝を押しつけ越えれば、小畑体を捻って亀へ逃げる。林、帯と足首を持って転がすも小畑逃れる。林、今度は横に崩すが小畑懸命に逃れる。林、頭について重圧を掛けながら、右腕を小畑の腹から股へとねじ込み小畑を捻り上げるが、さすが東北の四年生、懸命に畳にへばりつく。林の右手は小畑の股を離さず、再度の捻りに右腕で下半身を制しながら上体を滑らせて胸を合わせる高等技術を以てしても、小畑の闘志を打ち壊すことができず小畑は亀に戻った。三分半経過、審判が小畑の左耳介からの出血により試合を止めた。再開、林些かも緩めることなく小畑に重圧を掛ける。「あと、二つだぁ、頑張れー小畑」、「林ぃー、あとふたあつ」、両軍からの声援が交差する。林、小畑の襟を摘み、持ち上げて、立つ。立ち上がり、林の突進に小畑堪らず亀になり、「注意」。再度、突進するも小畑身を投げながら亀になるも、その瞬間林の左手が小畑の股から覗いていた。すかさず林は腕に小畑を乗せて縦に返し上体を寄せながら胸を合わせ、縦四方に固める。小畑一瞬として静止することなく、時間いっぱい暴れ捻り跳ね回るも林の豪腕を逃れること能わず一本(図33)。小畑、一六六cm六四kgという小兵ながら、両軍に「これぞ、七帝柔道」というべき見事な戦いを見せつけ、帰陣した。
続いて、東北は五将一年生三浦初段が登場。三浦、左で林の背中を取り林の頭を下げ、内股大外を連発するが、林微動もせず、三浦の払い腰を覆い被さるように小外を掛ければ、三浦堪らず背中から落ちて一本(図34)。林落ち着いて二人目を抜く。
 続く三人目は、東北三年生高橋(英)二段の登場。林一〇〇kg、高橋九四kgと巨漢同士の一戦である。高橋積極的に前へ出てくる。高橋左の喧嘩四つで、両者がっちりと組み合うも場外。その後、組み手争いが続き決め手を出せず。二分半が過ぎた頃から、林、積極的に取りに行くが、高橋林の周りをくるくると回るだけで組んでに来ず、逃げの姿勢を貫く(図35)。ようやく組み止めても場外の連続で時間、引き分け。
図33
図34
図35
 北大陣、六将にはこの一年で成長著しい山本を配していた。山本は九大戦大将に陣取っていたため、これが初戦となる。対する東北は、上背のある。二年生品川初段。品川の引き込みを山本腰を落として受け、足を捌いて頭へと回り込もうとするが、品川の脚がなかなかに効いており、山本の意志は通らない(図36)。山本、左右に品川を振るが品川の脚は生きており、山本の自由を奪う。山本、品川を引きずり起こして自分から引き込もうとするが、品川嫌って背を向ける。山本背に付き得意の絞めへ移行しようとした瞬間、品川体を捻って正対へ。山本一気に捌こうとするが、品川もなかなか崩れず正対を保持。山本両足担ぎに出れば品川回転して正対へ。山本、なかなか品川を制御できず。山本、上体を回転させ素早く頭に回れば品川堪らず背を向け、山本が覆い被さって首に手を差し込んだ瞬間、前に落とされ一転して山本が下になる。攻防目を離せず。品川、上を嫌い山本を無理矢理引き込み畳を背負う。山本捌いて左足を越え、頭へ回り、背中について絞めを狙うが時間。攻めに攻めた山本は、心なしか肩を落として帰陣す。しかしながら、両者時間いっぱい休むことなく動き続けた寝技の攻防戦は見事であった。
図36
 北大陣五将に布陣するは、九大戦ですでに一勝を挙げている小林主将。対する東北も木村主将が副将に布陣しており奇しくも主将同士の対戦となった(図37)。
 木村、東北の意地をかけて詰め寄せてくる。小林鋭く躱し組み止めた瞬間、木村引き込むも、小林嫌って持ち上げ、立つ。小林上背を利して奥襟を取るが、またしてもしゃがまれて、引き上げる。木村も動きよく、伸び上がって奥襟を取り攻勢に出るが小林が組み止めると引き込んでくる。両者の自己主張がぶつかり合う。小林、トントントンと高く跳ね飛ぶところへ木村が襲いかかるが体を躱され、自ら場外へ吹っ飛ぶ。木村引き込み、小林組み際、木村の頭が下がった瞬間、そのまま畳に落として亀にする。頭に周り足首を取って体を伸ばし制御を図るが、木村も必死に腰を上げてきたところで場外、「そのまま」で中央へ移動。残り時間はあと半分(副将戦なので四分)。小林、頭に乗り足首を捉え木村を完全制御。東北陣営より絶叫が飛んでくる。大柄な小林に背中から包み込まれては木村も動くこと叶わず前へ前へと移動し、再度中央へ。「あとひとつはぁーん」絶叫が悲鳴へ変わる。木村、小林の足首を引きずり込もうと懸命に頑張るが、小林の膂力を打ち破ることができるはずもなく、時間。小林、盛大な歓声と拍手に迎えられ胸を張って帰陣。東北陣、寂として声なし。
図37
 東北大将安倍初段を迎え討つは、四将三年目根元弐段。開始早々、根元が飛び上がって奥襟を取れば、安倍堪らず潰れて亀。馬乗りから引き起こして完全に抱え込んだ。落ち着いて左足を安倍の股に差し込み、左肘を掴んで引き寄せながら、上体を少しずつ回し懐へ包み込んでいく。右腕でじっくりと肩を極め、脚を抜いて横四方に固め一本(図38)。
 東北勢の執念も北大の圧倒的な力には抗し得なかった。北大、四人残して東北を下し決勝へと駒を進めた(図39)。東北への見えない屈辱は完璧にぬぐい去ることができた。これで心おきなく決勝戦を戦うことができる。心なしか小林主将に笑みが浮かんでいるようにも思えた。   
図38
図39
- 2 -