極私的七帝戦観戦記 2005 福岡大会
           小菅正夫(昭和44年入学)

 昨年、母校北大で開催された第53回大会を清田主将率いる我が北大柔道部が見事七帝を制してくれたことが、つい昨日のことのように思い出される。あれから長いようで短かかった一年の年月が経っていた。この間、様々なことがあったが、現役諸君は、周りの雑音に耳を貸すことなく、自らの戦いにすべてを集中して今日の日を迎えてくれた。このことに心から感謝の意を表したい。
 さて、清田前主将から北大柔道部の幟を引き継いだ坪井健一郎主将、そして彼を支えるのが、遠藤直人、川口恵司、森田雄作、中塚巧、中井善太の同期生である。彼ら六人衆は、北大柔道部二連覇に向けて、あっという間の一年を懸命に走り続け、そのままの勢いで福岡の地へと乗り込んできた。
 佐々木前コーチによれば、「北大、東北大、九大のどこが優勝しても不思議ではない。もちろん、他の四大学も優勝の可能性は0ではない。勝敗は時の運!戦いの女神が微笑んだ陣営が勝者となる!」と、七帝戦を知り尽くした男らしい予測であった。それでも、筆者は北大優勝の確率を問うた。彼は「組み合わせにあり」と答えるのみであった。
 主将審判会議で、組み合わせ抽選が行われた。北大は六番籤を引き、一回戦は京大と対戦することになった。三年連続決勝へ進出している強豪東北大学は3番籤を引いた。大器山本主将率いる地元九大は指定席七番である。対戦相手も決まり、坪井主将の小さな目に一筋の光が矢の如く走った。明日は、いよいよ決戦の時である。

 平成17年6月18日。決戦の朝を迎えた。会場は、福岡武道館。その日の福岡市はからりと晴れ渡っていた。坪井主将に率いられた我が北大柔道部は、他大学を圧する勢いで、優勝旗を手に堂々と血戦の会場へと乗り込んだ。
 開会式で、坪井主将から優勝旗と優勝杯が大会長へ返還された。“もう一度我が手に・・・”の思いを込めて。開会式は滞りなく終了し、さっそく一回戦二試合が開始された。
 第一試合場では、大阪大学が、三年生奈良岡弐段の三人抜きなどで、名古屋大学を下した。第50回大会で我が北海道大学と覇を競った強豪名大が、昨年に引き続き15名の選手を揃えることができないでいた。そのことに言うに言われぬ危機感を抱いたのは筆者だけではあるまい。そのようなチーム事情の中で、名大は部員13名が全力を尽くして戦った。特に3年生小椋弐段の3人抜きは見事だった。早期復活を願って止まない。
 第二試合場では、東北大学が、4年生伊藤周選手の2人抜きなどで、東京大学を下した。失点0の理想的な試合運びに、相変わらず隙のないチームを築いてきたことを印象づけた。

一回戦2試合を観戦しながら、内なる闘志を醸成させてきた北大柔道部員は、第一試合場において京都大学と対戦する。京大とは、昨年二回戦で対戦している。この時の京大は、3回生と2回生合わせて3人しか揃わず、戦力的にはかなり苦しい状況下での戦いであった。結果は6人残しでの北大の勝利に終わったが、今年の京大陣営は、2回生が8人と充実しており、加えて5回生を2人増強していることから、チーム力としては相当強化してきていることが見て取れる。
 迎え撃つ我が北大陣は、4年目六人衆が万全の仕上がりを見せ、加えて安定感抜群の安江前副主将が助っ人を買って出ており、3年目2名、2年目6名に新人6名と非常にバランスの取れた陣営である。よもや苦戦することもあるまいと思われた。
さて、北大の陣立てを見てみよう。今年も先鋒には、2年目の井手弐段を起用した。昨年、井手は1年目ながら全試合に先鋒として出場しており、その試合度胸には定評がある。そして五鋒には次期主将畑中弐段を置き、続く六鋒には坪井主将を重ね、前半の山場としている。中堅は安定感のある5年目安江で押さえ、昨年大活躍の4年目中井と3年目堀口を七將六將とこれまた重ね、副将には重戦森田弐段、大将は同じく4年目の寝業師遠藤で殿を固める盤石の布陣である。
 一方の京大は、五鋒までを2回生以下で凌ぎ、六鋒に5回生和田弐段を置いて得点を狙ってきた。和田選手は昨年副将で登場し、川口と対戦し逆十字で京大唯一の勝利を挙げている。また、続く七鋒には5回生松田選手を重ねてきている。京大は六鋒七鋒を中半戦の山場としてきた。一人違いで、両陣営の読み筋は極めて近いが、これがどちらに吉と出るかが勝負を分ける所だろう。そして終盤、三將に3回生野村選手、副将に坂本主将を配置し、1回生濱本選手を置大将としてきた。京大は前半に勝負を掛け後半逃げ切りを図る作戦である。

第一回戦 対京都大学
まさかの代表戦へ
 「赤・京都大学、白・北海道大学」。
 場内に両校を呼び出すアナウンスが流れ、気合いよく飛び出す両軍に観戦者から盛大な拍手と歓声が湧き起こった。「正面、礼。お互いに、礼」主審の声が会場を静める(図A-1 )。いよいよ、北大二連覇へ向けての戦いの幕が切って下ろされた。
 先鋒、2年目井手弐段対京大1回生狩野弐段が畳に上がり、試合開始の声を待っていた。「始めぇ」の声に井手が飛び出し、狩野をカメにして攻めるが防御堅く動かず。背について腰を決めようとするも堅い。流石弐段である。井手、執拗に狩野の左腕を狙い、巧く十字に決めれば(図A-2)、狩野堪らず参りを打って一本。京大の先行逃げ切りの作戦に早くもほころびが出た。井手、七帝戦初勝利を挙げる。
図A-1
図A-2
 京大2人目は、昨年の我が校との対戦で、2人を抜いてきた山田と対戦し落ち着いた試合振りで引き分けた2回生占部弐段の登場である。井手、勢いのまま左一本背負いに行くも潰され、カメになる。占部選手の徹底した横三角狙いに、井手膝を持って耐える。占部が横三角に回転する瞬間に合わせて、井手うまく立ち上がり、待て。占部に左組みを強要され、井手苦し紛れに左抱え小内に身を預けたところをうまく回され、横から落ちる。弾みがついて危なかった。占部、寝技を嫌って立つ。占部が左奥襟を持って内股に来るところ、井手横から背負って回すも不十分(図A-3)、両者崩れて中へ。両陣営より「あと4つ」の声。井手のカメに占部の執拗な攻撃が続く。占部根津返し(SRT)を試みるが、北大に根津返しは如何にも無謀。井手隙をついて体制を入れ替え、引き込むが持ち上げられて待て。井手、再三の背負いも浅く、スピード不足は否めず。
 “井手、相手をもっと動かせ。制止している相手は重い!”。
 再開後、占部の強烈な内股に横転するが、やや足らず、判定はなし。占部、三角で攻めるも諦めて立つ。立ち上がったところで井手渾身の左一本背負いに行く(図A-4)も、占部が馬乗りとなり、襟を取って腰に巻く。占部、井手の脇を取り肩羽締めへ入るが、井手懸命に1分を耐え切って引き分け。1人抜いて強者と引き分けたのは立派。井手が確実な成長を見せた2試合であった。見事。
図A-3
図A-4
 北大1人リードして次峰には1年目鹿島初段の初陣である。対する京大参鋒は2回生の松原初段。松原の引き込みに鹿島堂々と腰を落として正対し、右足を越えて捌きに入る体制(図A-5)。松原よく右足を戻し、引き付けて正対へ。鹿島落ち着いて胸を張り、松原の動きに会わせて足を越そうとするが、松原懸命に防戦、ついに両足を腰に巻いてくる。鹿島が不用意に腕を出すところ、脇を取られて引き付けられそうになるも、持ち前の怪力で引き離すが、横向きにされてしまい、危うく後ろに回られそうになるも、かろうじて正対に戻す。鹿島、乗りすぎの感あり。引き込まれた際に噛み付くのか捌くのかが徹底されていない。案の定、足を越えずに首に手を回す危険を冒してしまったが、ここで時間。拙攻に助けられた一戦であった。鹿島には良い経験となったはずだ。今後の精進に期待したい。
 続く参鋒には堅実な4年目川口初段の登場、対する京大は2回生藪根弐段。藪根は181p85sと大柄の選手で、昨年は坪井と対戦し、坪井の重圧を受け続け、取られたといえども善戦しているので、川口も油断はできない。
 川口、ゆっくりと引き込む。藪根、右足を担ぎ挙げ右腕を膝で踏み、固めようとするも川口はね除けて両足を腰に回すが、持ち挙げられて待て。藪根昨年よりも力強く、動きも鋭い。稽古量も十分のようだ。再開後、川口が引き込んだ瞬間、藪根の右足が川口を超え、肩に腕が回ってしまっていた。何という素早さだ。川口の油断か。藪根が川口の肩を決めた時には、彼の立てられた膝が既に川口の両足から顔を覗かせてしまっている。上手い。これでは、二重絡みもできない。
 「川口押し戻せぇ。」北大陣から声援が押し寄せる。
 その瞬間、すっと藪根の足が抜けて、身体が前に滑って行った。川口懸命に体を捻ってなんとかカメになるが、藪根の長い足に腰を決められ、そのまま横へ強烈に回され、川口堪らず天を仰いだ。その瞬間、藪根の厚い胸が川口の胸を圧してしまった。川口懸命に両足で藪根の踵を捉え続けるが、後二つ半のところで足を抜かれ万事休す(図A-6)。藪根の落ち着いた攻撃は、彼の自信に裏打ちされたものだ。京大勢の精進を見せられた一瞬であった。先鋒井手の挙げた1点を川口まさかの敗戦で返されてしまった。
図A-5
図A-6
 続く北大の四鋒は、2年目高橋弐段が充てられていた。高橋右、藪根左の喧嘩四つである。高橋、腰を引いた半身の体勢で、どっしりと守る。藪根のフェイント内股からの小外掛けに腰から落ちるが、辛くも両足を腰に巻き安全体勢へ持ち込む。藪根、膠着を嫌い持ち上げて、立つ。勢いよく飛び出してくる藪根に対し、高橋、後退りしながら頭を下げてしまう。
 “これは相手を勢いづかせるだけで、決して得策ではない。むしろ向かっていって組み止める気合いが大切だ。高橋の腰は重そうなので、天性の武器となるので、向かっていく柔道を心がけて欲しい。”
 藪根の強引な内股に崩されてカメとなるところを一気に後ろに回られてしまった。藪根は、腰を決めてから横に回し、高橋が天井を向いたところに胸を合わせていく。まさに川口が取られた時の再現ビデオを見ているようだ。足を抜かれて“万事休すか”と思われた瞬間、高橋は懸命の捻りで畳を見ていた。「よぉーし!」北大陣より歓声が沸く。
 しかし、藪根は、同じように腰を決めて左右に振ってくる。心憎いばかりの落ち着きようだ。高橋、今度はがっちりと右腕を両手で捉えられ、足を外されれば、堪らず横四方に極められる(図A-7)。高橋懸命の体捻りもあと一歩で返らず、一本。何と、京大2回生の藪根選手に2人抜きを許すという予想外の展開となった。
 北大五鋒には3年目次期主将畑中弐段が控えている。畑中気合い十分、畳へ上がる。組み際に体落としを見舞い、さらに藪根の内股に合わせるように放った「かみそり内股」で藪根を横転させ(図A-8)、藪根は背中から落ちるが、技有りの判定。
 なぜだ?落差こそなかったものの、藪根は勢いよく横転し、背中を完璧に叩きつけられていた。未だに立技を判定することができないとは!審判団の猛省を求めたい。
 誰が見ても“内股一本、畑中の勝ち”であった。
 畑中、そのまま左で肩を決めようとするが、藪根に捻られ、腰にしがみつかれるも、引き離し、藪根を引き倒して上に乗るが、なぜか待てを宣せられる。畑中に訊いたところ「自分にも分かりません」ということであった。何とも不可解な判断である。
 再開後、畑中の大内に、藪根跪くようにカメとなる。畑中、嫌って、待て。畑中、内股から藪根をカメにして、根津返しを狙うも捻られてカメに。嫌って、立つ。組んだ途端、藪根は崩れ込むようにカメとなり、畑中嫌って立つ。まともに組み合わず、へたり込む行為には、注意・警告が必要だ。審判規定をしっかりと適用してもらいたい。畑中の内股、体落としに藪根堪らずカメとなり防戦一方。畑中、足で巧く左腕をとり地獄を狙うが、藪根は必死に回りこみカメとなる。畑中、嫌って立つ。畑中が内股に行くところを藪根に腰を切られて、逆に体落としに回され、勢いのまま落ちてしまい、技有りを取られる。畑中不覚。
 藪根が畑中の左脇に手を入れた瞬間、畑中電光石火の後ろ袈裟。見事な切り返しである。そのまま場外から中へ運ばれ、足を与えたままじっくりと肩を決めに行く。「畑中勝負ぞぉ」北大陣から期待の歓声が上がる。畑中が足を抜いた瞬間(図A-9)、藪根は体を捻って上になり、藪根が畑中の腰を抱いたまま、時間が来てそれまで。
 藪根の地力侮れず、2人を抜いて畑中と分けたは、敵ながら天晴れである。
図A-7
図A-8
図A-9
 誰が予測したであろうか、この展開を。前半戦を終了した時点で、北大が1人リードを許すとは、しかも五鋒に配した3年目畑中弐段は、昨年2勝を挙げた抜役で次期主将である。北大陣営は、前半戦少なくとも2人をリードしての有利な試合展開を予測していたはずだ。
 しかし、最悪この展開を読んでいたかの如く、六鋒には4年目坪井主将が控えていた。対するは京大2回生家城弐段。何としても坪井に討ち取って貰わねばならぬ。北大陣の期待を一心に受け、坪井は畳に上がった。家城、坪井主将を相手にすでに顔は青ざめている。組み手争いの末、がっちりと奥襟を取った坪井に、家城潰れてカメになる。坪井、横三角や強烈なフライパン返しで攻め続けるが家城の懸命な守りに糸口が掴めず、ついに時間。京大陣から大歓声が湧く。
 1人リードを許して、肝心の坪井主将が引き分けられても、北大陣営に焦りの色はまったく見られない。やはり後半に森田、遠藤を置き、どのような展開となっても、ひっくり返せる自信があるのだろう。
 さて、ここで北大陣は、1年目岡山白陵高校出身の吉田初段を七鋒に抜擢していた。対する九大は5回生和田弐段である。和田は昨年副将で登場し川口を逆十字で取っている寝業師である。初陣でいきなり和田との対戦では、やや荷が重すぎる感があるが、吉田は、気合いを入れて畳へ踏み出した。しかし、試合巧者和田に引き込まれ、不用意に持ち上げようとしたところを逆十字に取られ、懸命に逃げるところ、足を刈られ、またしても左腕を逆に極められ万事休す(図A-10)。和田選手の関節技は見事。1年目では防ぐことが難しいだろう。吉田選手には得難い経験となったはずだ。
1年目の後ろを固めていたのは前年度副主将、安定感抜群の安江だ。安江、落ち着いて組み、右足を出して、いつもの通りに引き込む。そして、いつもの通り安江得意の体制に引きずり込んでいく。しっかりと和田の身体を伸ばして相手に抱き付き、和田の足を二重に絡めた「安江絡み」が完成した。
 “ん?ちょっと抱き付く位置が高いか?”
 何となく安江の体勢が不安定に思えた。和田が顔に手を当てて振り解こうとして審判より注意を受ける。どうも気になるのは安江のしがみ付く場所が、普段よりちょっと上がっているのだ。和田の首の所を抱いている。
 “良いのか、安江ぇ?”・・・とその時、安江の腕が、和田の胴体から離れ、なぜか藻掻いているようだ。逆に和田が安江にしがみ付いて行く。
 そして審判は「一本」を宣した(図A-11)。
図A-10
図A-11
 愕然とする北大陣。信じられないような顔付きで喉をさすりながら安江が北大陣へ戻ってくる。袖絞めだった。やはり、安江のしがみつく位置が上過ぎたようだ。もっと下、和田の腹にしがみ付き胸に顔を埋めるべきだった。いつもそうしていたはずだ。どうしたんだ安江。

 【閑話休題】
 昨年の決勝戦、畑中が二人を抜いてきた東北大吾郷選手を見事な地獄絞めで取った。試合終了後、会場のあちらこちらで各大学の先輩による地獄絞めの実技講習が繰り広げられていた。筆者が現役の頃(1969〜1972年)は、どのチームにも地獄を得意とした選手がいた。その他にも様々な技の使い手がいて、その防御策も多彩であった。袖絞めは、我が同期の中島が得意としていた技で、二年目で出場した彼は、前に回ってからの袖締めで東大の選手を討ち取った。よって、我々の代は誰も袖絞めを食らわなかった。知らない技は防ぎようがないということだ。
 どんなに器用な選手でも、得意とする技は数種類のものだろう。多くの部員を抱えていてこそ、多彩な技が引き継ぐことが可能となる。部員不足の弊害がこんな所にも現れてしまっているような気がした。

 誤算に次ぐ誤算。この展開で北大陣は4年目中井初段を繰り出すことになってしまった。だが、中井は昨年の大会で名大勢を2人、東北大勢を1人抜き、その後をしっかりと引き分けて優勝に大きく貢献した実績の持ち主。今年は4年目としてチームの中堅に成長している。ここは、安江の落とした星を取り返して欲しい。
 和田引き込んですぐに前絞め。中井がっちりと噛み付き左右の捌きを狙う。右足を越えてじわじわと上がり、足を越えて腰を浮かしたところをうまく掬われ中井が下となる。中井、下から引き付け、起き上がってもう一度噛みつこうと腰を浮かした瞬間、中井の左腕が和田の手の中に残ってしまっていた。あっという間の出来事だった。和田の身体が中井の中で回転するや、中井の肘は完全に極められていた(図A-12)。ほんの一瞬の油断を見逃さなかった和田の勝ちである。なんと5回生和田選手に3人抜きを許してしまった。
 六將3年目の堀口弐段、あれよあれよの展開に、我こそ和田を葬らんと、気合い十分立って取りに行く。和田、疲れが出たか組み手に生彩を欠く。崩れてカメになった瞬間堀口の右腕が肘まで和田の左腕を捉えていた(図A-13)が、堀口そこを突けず、腕を抜いてしまった。“なぜだ?、堀口、なんで放してしまうんだ”
 北大陣から「立っても良いぞ」の指示が飛んだ。ここで堀口、離れて立つ。和田、堀口の腰にタックル、そのまま潰れて中央に運ばれる。和田に疲れが見られ、カメとなるも堀口離れて立つ。堀口、背負うも不十分、和田倒れて引き込み体制に。堀口立つ。守勢一方の和田に、堀口何もできず。
 “恐れていては、取れぬぞ。我が身を安全に地に置いて取れるほど、勝負は甘くない” 和田が引き込み、堀口が立つ。あの堀口が手も足も出ない。寝技の威力だ。和田は、完全に場外に逃げているが審判は注意すら与えない。しばらくしてようやく「注意」。和田、腰を挟むように飛び込んで引き込む。堀口必死に持ち上げて待て。あと1分。長い腕でからみついてくる和田を飛ばせず、ついに時間(図A-14)。
図A-12
図A-13
図A-14
 中盤を終えて4人リードを許す厳しい展開にも、北大陣に動揺はみられない。
 1年目ながら五将に抜擢された木村弐段が初陣を張り、七鋒5回生松本弐段と対戦。小柄な松本、木村を警戒して引き込んでくる。木村胸を張って正対する。老練松本の動きは自由自在に木村を翻弄している。木村、徐々に横に着かれて、後ろ帯を取られ、頭を下げさせられる。そのまま横に着かれて、下から抱き込まれたが、かろうじて体勢を戻し、正対。「あと一ォ〜つ」。「立てぇ〜、木村ぁ」北大陣より声援が飛ぶ。松本の執拗な食いつきに、木村両手で帯を持ち腹を突いて基本体制に戻る(図A-15)。そのまま気を抜くことなく、時間。
 1年目ながら、懸命に引き分けた木村の健闘を讃えたい。“よう、頑張った”
 続く四将には4年目中塚が登場、京大中堅を担う2回生川本弐段と対戦する。川本選手は186cmと大柄で、昨年は畑中の2人目として対戦し、畑中を背負ったまま立ち上がった剛の者である。小柄な中塚の闘志に期待する。
 中塚、組み際にしっかりと引き込むが、振り解かれて待て。川本の上背に戸惑っている様子。せっかく引き込んだのにもったいない。中塚、勢いよく引き込み、その勢いに乗って、そのまま上になる。何と言っても小柄な中塚、大きい川本の上の乗っかっている姿が、妙に不安定!と思った瞬間、引っ繰り返されて横四方に極められてしまった。当に一瞬の出来事であった。しかし、闘将中塚、4年目の意地で、横四方を振り解き、ついに畳を咬んで「解けたぁ」(図A-16)。
図A-15
図A-16

 しかし、何という不運。中塚の右脇に川本の左踵が残されていた。中塚は、すぐに返され、体から離れていた腕を絡み取られしまった。中塚、己の関節を捨てて懸命に足抜きを阻止する。その間に、中塚の腕は完全に極められてしまった(図A-17)。川本、長身を活かして中塚を延ばそうとするが、中塚の身体は海老のまま。ついに諦めて立つ。中塚の頑張りに北大陣営から歓喜の声援が飛ぶ。「そこだぁ、中塚ぁ、立たせるなぁ」。
 相手が嫌がって立とうとしているのだから、簡単に立たせてはならない。それにしても、中塚の頑張りは北大柔道部4年目の意地そのものだ。あの小さな体に秘めた闘魂こそ、彼が4年間の修行で身につけたものだ。
 中塚引き込むも、川元が更に引き込み返して、またしても中塚が上に乗せられる展開となる。“「だめだ中塚。小さい者は大きい者の上に乗せられてしまってはならない。”
 中塚、今度は、用心深く腰を落として正対している。「これだと安心」と思った瞬間、中塚の右手が引っ張り込まれて川本の長い足が中塚を前三角に絡み付いていた。「あと、一ぉつ」。中塚、懸命に立ちあがり、待て。中塚、川本の強烈な大外を躱して、カメで守ろうとするが、すぐに横三角に捻られ、どうしたことか、横四方に胸を合わされる(図A-18)。「今だ中塚ぁ」。「もう少しだぁ」。「中塚ぁ、中塚ぁぁ、中塚ぁぁぁ」。北大陣総勢からの懸命の声援もついに奇跡を呼ぶことはなかった。
 残念無念、中塚。でも、負けたとはいえ、最後の最後までよくぞ堪えてくれた。これは中塚にしかできない勝負、中塚の闘志と稽古量が見えた試合であった。
図A-17
図A-18


 いよいよ、北大は参将の2年目畠山初段が川本と対決。左組みの畠山、組み手争いに妥協しない。川本、上背を利して抱きつき畠山を押しつぶす。畠山が嫌って立つところを左腕を脇から覗かせて帯取りに返せば、畠山堪らず回転しながら場外へ出る。この一連の動きの途中で審判が、「そのまま」と止めて(図A-19:右上に制止する審判の手が見えている)中へ運び込んだ。
 こういう動きの中で、試合を止めるのはいかがなものか?それも畠山は脇をしっかりと取られたままだ。移動する間に川本は自分有利の体勢に持っていく。しかも、審判団が両者の元の位置関係を把握していない(図A-20:体勢を協議している審判団)という、信じられない展開で、主審の宣告「はじめ」の瞬間に畠山は抑えられてしまった。
図A-19
図A-20
 畠山懸命に暴れ、体を右に捻って回転し、しっかりと畳に齧りつき、「解けたぁ」(図A-21)。畠山の気迫の底力だ。もちろん中塚の決死の頑張りがここで生きている。疲れた川本、畠山の上でしっかりと休み、畠山が起きあがろうとする動きに合わせて横崩しに畠山を落とし、腕を極めて抑え込むも、畠山懸命に跳ね返す。その瞬間、息もつかせず畠山の左腕に絡みついて逆十字を狙う。畠山、腕を引き抜きつつ立つところを執拗に引き込んでくる川本。長い足が邪魔をして畠山が自由に動けない。
 ここでチャンス到来、畠山が一度腰を落として、サッと捌き、瞬時にして横四方の体制となった。「よ〜し、行けぇ〜」大声援の中、さすが川本、長身を捻って俯せとなる。畠山、落ち着いて今度は横三角を狙う。川本、両膝を持って守り、機を見て畠山の左足を引いて倒そうとするが、その瞬間倒されながらも畠山の右足が川本の左脇を捉えていた。「見事、三角が決まった」(図A-22)と思った瞬間、いつもと向きが逆だったためか、川本に外されてしまった。畠山、攻撃の手を緩めず、腰を極めて体を伸ばそうとするも伸びず、背中に回って絞めを狙うも、ついに時間。畠山の後半の攻めは圧巻であった。両者死力を尽くした寝技の攻防は七帝戦の神髄である。
図A-21
図A-22
 京大勢七将を迎える北大陣は、ここで森田副将、遠藤大将のみとなる。
 いよいよ、北大副将・4年目重戦森田弐段が満を持しての登場である。森田は1年目から七帝戦に出場し、これまで12勝を挙げている剛の者。ここで超弩級森田が何人抜けるかが北大の命運を左右することは衆目の一致するところだ。
先ずは1人目、京大七将の2回生森田初段。森田、落ち着いて仕切り線へと進み、悠然と京大森田を待つ。主審、両者が揃うのを待って、大きな声で「はじめえぇ」試合開始を宣する。森田、引き込まれてすぐに片足を担ぐが、足を絡まれたので持ち上げて、立つ。2回目の引き込みに合わせて、今度は軽く捌き、足を越えるも、しがみつかれたので持ち上げて、立つ。森田は、この2度の引き込みで、相手の引き込むタイミングを見切っていた。3度目の引き込みに、ぴったりと合わせて、瞬時にして頭へと回り込み、立四方に固めれば(図A-23)、京大森田微動だにできず、一本。
 続いて迎えるは、京大六将3回生塩田初段。塩田の引き込みに合わせて担ぐが、しがみつかれてしまい、持ち上げて、立つ。組まずに逃げる塩田を追いつめ、ようやく道衣を掴んだ瞬間に引き込まれ、片足を担いだが今度はカメになられたので離れて、立つ。3回目の引き込みは、ゆっくりと担いで塩田を動かさず、体重を掛けて足を割り肩を決める。手順に右足を抜き横四方に固めて一本(図A-24)。
図A-23
図A-24
京大3人目の相手は、五将2回生古野弐段。疲れを見せない森田に、古野は立って来た。寝技で凌ぐことが不可能という判断なのだろう。森田、しっかりと組んで内股一閃、見事に古野を高々と宙に舞わせて一本(図A-25)。
 京大としては、寝ても立っても超弩級の森田に対して、取り得る作戦もない。
 森田の4人目は、参将木下弐段。2回生の木下は、立ち技で勝負と決めたようだが、それも怖くて、組まない作戦のようだ。森田ようやく追い詰めて掴み、逃げる木下を潰して、カメにしてから、股から手を入れ、そのまま逆さに持ち上げ(図A-26)、胸を合わせて横四方から上四方へ移行して一本(図A-27)。
図A-25
図A-26
図A-27
 4人を抜いて、さすがに森田顔が上気して赤らんできた。京大5人目は、3回生野村選手。開始早々、野村が引き込む。森田、すぐに捌きを見せるも、体の切れが鈍い。森田にも5人目の疲れが押し寄せてきた。野村、懸命に足を利かせて、森田が攻め上がって来ると森田を返しながら(図A-28)、ついに体を翻してカメとなる。“ここは森田、上体を預けたままで一度息を整えるべし”と思った途端、森田が立ち上がった。
 「早すぎる」
 「8分の時間を有効に使え」
 「爆発させる体力が森田の武器なのだから」
 再開後、すぐに引き込まれた森田、またも野村を放してしまい、待て。引き込みに合わせて体を浴びせるが、そのままカメになられて、自ら離れて、待て。
 森田が引き込みに合わせて体を寄せても、野村の方も森田のタイミングを覚えてしまい、すぐにカメになる。森田背中に付くが動けず、「あと4つ」の声。引き込みに合わせて渾身の大内に刈るが、浅い。森田、野村を持ち上げようとするが、時間が掛かりすぎる。森田の余力がなくなってきているのが分かる。森田は、そんな自分の心を叱りつけるように、思い切って立ち上がり、「イヤー」っと吠えた。同時に北大陣からも森田と心を一つにした大きな気合いが会場に響き渡った。森田、カメになった野村の股に後ろから手を差し込んで持ち上げようとするも、野村必死に堪え、森田が立ち上がる。野村、引き込んで森田の足に絡みつき、森田の足を締め付ける。まるで足関節を取るかのようだ(図A-29)。森田、しばし立ち上がれず。それでも森田、懸命に立ち上がり、足ごと野村を持ち挙げて立つ。森田、組み際の必殺大外も回り込まれて背中に付かれる。森田、そのまま巻き込んで上になるが、背中にしがみ付かれて身動きできず(図A-30)、北大陣より悲鳴のような「あと半分」の大声援が響き渡る。「森田ぁラストぉーーーー」。ついに時計盤の針が止まり、非情のブザーが鳴った(図A-31)。「それまでぇ」、主審が試合終了を宣告した。
図A-28
図A-29
図A-30
図A-31

 森田、落ち着いて服装を整え、一礼して畳を下り、大歓声の北大陣へと帰陣す。4人抜きの森田、陣営のど真ん中にどっかと胡座をかいて、後を頼むと遠藤の戦いを見守る。
 北大大将に陣取るは、4年目遠藤初段。遠藤は、1年目の初陣で九大田代を破り、白星で七帝戦デビューを飾り、3年目には3勝を挙げ、北大の強豪抜役として他校から恐れられる存在となった。4年目の今年は更なる精進を重ね、自己を極限まで磨いてきた。ところが、“好事魔多し”。七帝前3週間の稽古で肋骨にひびが入ってしまうという不運に見舞われた。出場にまでは、何とか漕ぎつけたものの、万全ではない遠藤に託されたは、京大陣副将に陣取った京大坂本主将と大将の2名。何とかして坂本を討ち取らねば、北大に次はない。
 両軍正座して迎える大将戦。遠藤は落ち着き払って仕切り線までゆっくりと進んだ。「始めぇ」主審の声が遠藤の闘志に火を付ける。坂本、真っ正面から堂々と引き込んでくる。遠藤長い腕を利して離れ、捌いて頭に回り込むも、坂本の足が効いて押し戻される。遠藤縺れた足を一度元に戻して正対。もう一度捌く体制に持っていくが、坂本も十分に引き付けて、右手で後ろ帯を取る。その空きを見つけた遠藤の細い体が、スッと坂本の上半身を覆い込んだ。その時既に、遠藤の左腕が坂本の右腕を捉えていた。当に一瞬の出来事だった。遠藤、体を回して馬乗りになり両足で胴を絡めば教科書のような縦四方固めの完成である(図A-32)。しかし、流石は京大主将、懸命に足を絡んで来て「解けたぁ」。
図A-32
図A-33


 遠藤落ち着いて、横四方の体制を維持しながら徐々に足抜きの体制に持っていく。腰を切って左足を内側に抜こうとするが、坂本の膂力が遠藤を押し返した。両者天晴れなる攻防。再開後、遠藤距離を取って動きたいが坂本の引きつけが厳しく、足首を持たれて思うように裁けない。「どうした遠藤」。誰もが遠藤の動きに首を傾げた、その瞬間である。遠藤の上体がスッと坂本の右足を越えていた(図A-33)。何とも言いようがない芸術的な動きに、驚いたのは坂本だろう。必死に俯く坂本の頭にまわった遠藤の右腕が、深々と坂本の胴を捉えていた(図A-34)。必死にカメで堪えている坂本の顔が歪んだ。遠藤、えいやっとばかりに返して、根津返し(SRT)に抑え込む。遠藤、鬼の形相で畳に顎を突いて自陣を睨みつけ、一本。(図A-35)
図A-34
図A-35

 【閑話休題】
 敗れた京大坂本主将、彼にとって遠藤と引き分けることは、難しいことではなかったであろう。引き分けに徹しさえすれば、京大の勝利が決定したはずだ。それなのに、坂本は遠藤を取りに来た。何故だ。それは、坂本主将の柔道人としてのプライドなのだろうか。それとも遠藤の闘志に彼の闘志が共鳴した結果だったのか。この答えを知るのは坂本主将、ただ一人である。

 ここで、北大はようやく試合を6対6の同点とし、精魂込めて坂本を葬った大将遠藤に対するは京大大将1回生濱本初段である。両校は、大将決戦に命運をかけることとなった。 濱本は、腰が太く、いかにも重い。1回生ながら、力強い左組みで、すぐに内股を仕掛けてきた。遠藤、立ち技ではやや押され気味、坂本戦の疲労が遠藤を覆っているようだ。しかし遠藤は、余裕たっぷり腕捻りで濱本を寝技に誘うが、重たくのし掛かられ、しばし二重絡みで守りながら休む。遠藤には、坂本との戦いで精も根も尽きていて、濱本を取りに行だけの気力が残されていない。ただし、遠藤は濱本の力量を見切っていて、濱本が肩固めの体制となっても、慌てることなく二重絡みを維持していた(図A-36)。試合終了間際には、二重絡みを外されそうにまでなったが、慌てる様子もなく「それまで」。
図A-36
 大役を果たした遠藤は、安堵の歓声が広まる北大陣の拍手に迎えられて、ふらりと帰陣した。あの怪我さえなければ・・・。最も無念であったのは、当の遠藤であろう。
 北大は、森田、遠藤の両名が5人差という圧倒的劣勢を押し返し、戦いを振り出しに戻してくれた。京大陣も一時は勝利を確信したに違いないが、北大の底力には驚いたに違いない。

 【閑話休題】
  誰が、引き分け代表戦を予測したであろう。前半戦で、京大の2回生藪根選手に2人 を抜かれ、5回生和田選手に3人を抜かれたことが、北大陣としては大きな誤算であっ たろう。しかも、畑中の内股が誤審により判定されず、引き分けられるという不運が追 い打ちをかけた形になってしまい、一人ずつ対戦相手が狂ってしまった。戦いに“もし も”はないが、畑中の内股が判定されていたら、坪井主将が和田選手と対戦することに なり、和田選手の蹂躙を許す展開にはならなかったであろう。これが、七帝戦の奥深い ところである。

 代表戦が開始された。
一試合目、北大陣は躊躇うことなく重戦森田を決戦の畳上へと送った、対する京大陣は坂本主将ではなく、何と2回生の川本を出場させてきた。坂本主将は、本戦で遠藤に勝負を挑み敗れてはいるものの、1年間京大柔道部を率いてきた強者である。坂本主将に何らかの事情があったとしか考えられぬ選手起用だ。
 川本も森田と変わらぬ上背で、堂々と立ってくる。森田、奥襟を掴むが、川本に暴れられて切られる。川本前捌き良く、森田に組ませない。森田の左手が動かず、引き手が取れない。川本、左手で森田の右手を掴み、奥襟を防ぐ。あと二つの声に、森田背帯を取り引き付けようとするが、川本場外へ逃げ出す。「森田ぁ、ここで決めるぞぉ」の声に、森田、奥襟を取った瞬間の膝車で腰を浮かせ(図A-37)、内股へと連続する(図A-38)が、川本に堪えられ背中に付かれる(図A-39)。森田、懸命に振り解き、横からの内股を狙うがしぶとく残され(図A-40)、続いて背帯を取って、右に捻り倒すもカメになられる。森田の猛攻が続く。両者、立ち上がり、組み直した、それまで。森田は本戦で4人を抜き、疲労は極限に達していた。残念ながら森田、川本を取ることができず、引き分け(図A-41)。
図A-37
図A-38
図A-39
図A-40
図A-41
 二試合目、北大陣は坪井主将が出場し、京大の出方を待った。京大の代表は2回生の藪根選手であった。坪井、奥襟とむんずと取り、そのまま内股を仕掛けるが、場外(図A-42)。坪井も藪根もしっかりと組み合うが、坪井が組み勝っている。またしても強烈な内股が炸裂するが藪根も受けが強く、場外(図A-43)。坪井、試合場中央で内股(図A-44)、何とか跳ね上げようとケンケンで運ぶも藪根に体を預けられ(図A-45)、後ろに付かれ(図A-46)、場外で足を払われる。またしても審判が動きの途中で止めてしまったため、再開の姿勢が分からずに協議をする始末。そして開始早々、背中に藪根を背負った坪井が動けない。藪根に攻める気など全くなく、坪井を立たせないことに専念している(図A-47)。坪井、何とかして藪根を背中から引き下ろそうと藪根の袖を引っ張り込み、首に回った襟などものともせず(図A-48)、必死の形相で対面を果たし、胴に回った藪根の足を解きに掛かる(図A-49)。何としても自分で決めようとする坪井主将の執念も及ばず、無情の笛が鳴ってしまった(図A-50)。ゆっくりと身を起こす坪井。精根尽き果てて、直ぐには立てない藪根は仕切り線で待つ坪井に対する2度もふらつきようやく礼を交わすことができた。両者、全力を出し切っての攻防であった。坪井、自ら試合を決めること能わず、無念の引き分け。
図A-42
図A-43
図A-44



図A-45
図A-46
図A-47



図A-48
図A-49
図A-50

 三試合目、最後の代表として、体力を回復させた遠藤を送り出した。最後はもう一度坂本主将との勝負を掛けた対戦かと誰もが思っていたであろう。しかし、京大陣はまたも川本が畳に上がってきた。
 遠藤、ずるりと足に絡み付き、寝技に誘う(図A-51)。川本、遠藤の動きに翻弄され下になる(図A-52)。遠藤左足を川本に挟まれ締め付けられるが何としても上になろうとするも、川本に軸の右足を蹴られ尻をつく。左足を人質に取られている遠藤、膝の関節が決まってしまい動きを制せられている。ここで審判が立たせた(図A-53)。遠藤、ゆっくりと引き込み、川本の乗ってくるところを返す(図A-54)も、川本さらに体を捻って畳を見続ける。遠藤、川本の右腕に執着し、肘を取ろうと懸命(図A-55)。川本も懸命に堪えていたが遠藤の手首を握り逆に捻りながら体を入れ替え(図A-56)、立つ。遠藤のしゃがみこむところを川本三角に回そうとするが、遠藤はその上を行き、横四方の体勢へ持ち込む(図A-57)が、川本も体を回転させ動きを止めず、遠藤素早く腋を取り胸を合わせようとするが(図A-58)、川本の動きが止まらず、頭から背中に乗られてしまい遠藤動けず。遠藤最後の力を振り絞り、川本を持ち上げて噛み付いたところで笛。攻め続けた遠藤も立派だったが、逃げずに守りきった川本も立派であった。
図A-51
図A-52
図A-53

図A-54
図A-55
図A-56

図A-57
図A-58

 3回の代表戦で勝負はつかず、ついに、抽選で準決勝進出者を決定することになった。坪井主将が抽選の場へ進む。そして、勝負の女神は、坪井主将に微笑んだ。坪井の執念が引き付けた幸運であった。北大陣営から安堵のため息が漏れた。

 ここで、1日目の試合結果を簡単に記しておこう。
阪大が7対3で名大を下すと同時に、東北大が、東大を4対0で下して、阪大と東北大が準決勝進出を決めた。続いて、京大を抽選勝ちで下した北大が準決勝進出を果たし、残る一校を待つだけとなった。
 主管校九大は、指定席敗者復活トーナメントでの登場となり、名大を6対2で粉砕して、次の対戦相手を待っていた。北大との死闘の末抽選負けをした京大は、東大を3対2で破り敗者復活2回戦へ駒を進め、地元優勝を狙う九大に立ち向かったが、2対4で敗退した。残る準決勝の1席は地元九大となったのである。